東京都が来年度から、全ての高校で授業料を実質無償化する方針を固めたとのニュースが流れました。
都立高校の場合は基本的に授業料が無償ですが、私立高校の授業料はこれまで、世帯年収910万円未満の家庭に対し、平均授業料に相当するおよそ48万円が助成されていました。これが旧高校授業料実質無償化の取り組みです。(某政党のポスターなんかに実績として書かれていますね)
今回、物価高騰の影響で教育費の負担が重くなっていることを理由に、来年度から所得制限を撤廃し、都内の全ての高校で授業料を実質無償化する方針のようです。
この施策は大阪府が先に打ち出していましたが、いろいろ問題点も指摘されていました。
物価高騰の影響で国民の生活が苦しいというのは全国的な問題である一方、国はこの課題に有効な(というか、国民が喝采するほどインパクトのある)施策を打ち出せていませんでした。
そこを見透かしてこういう手を打ってくるあたり、小池都知事の政治家としてのセンスなのでしょうね。(好き嫌い分かれるところだと思いますが)
まあ、本来は国がやるべきという意見には賛成ですが、財政豊かな東京都だからこそできる施策とも言えます。
多分、国の予算は簡単に動かせませんのでね。
同じことを岸田総理がぶち上げたとして、絶対に
「財源は?」
「また借金ですか? 身を切る改革が先ではありませんか?」
「本当に所得制限を設けないのですか? 平等性はどうお考えか?」
という議論に引きずり落とされるのです。
(身を切る改革はやってほしいのですが、そこはみんな諦めていますよね)
大都市からスタートするのは平等でないし、地方との格差拡大を助長すると感じられる方も多いと思いますが、できる自治体が始め、全国に波及させていくという流れで進めていくのが最も実現性が高く、全国展開へ期待が持てるやり方でしょう。
そういう意味で、私は英断だと思いますね。
この施策の影響はいろいろなところに波及すると思うのですが、教育分野で身近な話題として、下記3点への影響を考えてみたいと思います。
1. 今年度の中学受験において、志望校選びなどの面で影響があるか?
2. 都立中高一貫校は凋落するのか?
3. 都立高校は凋落するのか?
〇今年度の中学受験において、志望校選びなどの面で影響があるか?
このタイミングでのニュースなので、今年度の中学受験生を持つ保護者、受験関係者界隈では多少ザワついたでしょうね。
ニュースの印象だけで行動するとすれば、東京都から通える埼玉や千葉、神奈川の学校について、受験・進学候補とするかを再考するという動きがあるかもしれません。
ただ、このニュースで詳細な情報(条件等)が出きっていない点や、今年度の中学受験者が高校生になるのに3年の猶予があり、その頃には無償化の対象や範囲なども一般的なケースには適用されるようになっているだろうと考えると、今年度の受験でバタバタと動くのは得策ではないと気付くでしょう。
そのようにして、最終的には極めて影響は少なくなるという気がします。(つまり、皆さん、今想定している受験校を受験し、進学希望もあまり動かないだろうということです)
ただ、志望校や進学先の方はともかく、居住地を東京にした方が良さそうだという判断はありそうですけどね。
〇都立中高一貫校は凋落するのか?
そういう書き込みコメントを見た気がするのですが、私は逆かなという気がしています。
都立中高一貫校の最大のメリットの1つに、私立に比べて各段に安い教育費が挙げられます。
今回の施策でこのメリットが薄くなりますので、すなわち都立中高一貫校の人気下落、生徒の質の下落につながっていくという考えは理解できます。
ただ、私は公私の費用差が小さくなり、優秀層が私立に流れるケースもあれば、逆のケースも出ると想像しています。
なぜそう思うのか。
現状、私立受験層と都立中高一貫校受験層は受験準備の段階で大きく分かれています。各塾に用意されているカリキュラムも分離していて、両方をサポートできると言っている塾はあまり無いはずです。
ですが、今後は都立を第一で考えつつも、私立もそれなりのレベルの学校を視野に入れたいというような層が増えると想像できます。そうすると、塾のカリキュラムも両にらみ受験に対応する必要が出てきます。
この流れが進むと、しっかりと勉強した人が都立も私立も合格し、残るは進学選択だけというケースが増えてくると思います。
問題は公私の費用差が小さくなる中で、都立中高一貫校がどれだけ「教育費以外の魅力を発信できるか」という点ですね。
多分、今後の都立中高一貫校は、公立という枠を飛び出す勢いで独自性を打ち出していくことになると思いますし、受験生も、公私を同列に見ながら志望校を選ぶような流れになっていくと思います。
何せ、都立中高一貫校のバックは都なのです。
ヤル気になったら力も資金もありますし、私立の有名中学と並んでも負けない良さを打ち出していけると思っています。
〇都立高校は凋落するのか?
これもそういう書き込みコメントを見た気がするのですが、この施策をもって都立全体のレベルが下がるとか、都立高校ばかりが淘汰されていくという考えは当たらない気がします。
少なくとも、都立上位校は今の位置を維持するのではないでしょうか。
これから少子化社会に向かう中で、高校全体で見ると都立も私立も学校が多すぎることは明らかです。
そこで公私の授業料差が小さくなった場合、高校の場合は実際に向う3年の授業料差が無くなりますので、進学者は都立→私立に生徒が流れる動きが出ると思います。
ただ、私立学校で高校募集を復活させる動きがあれば別ですが、偏差値的に上位に位置する学校が高校募集を停止しつつある現状、上位生徒の受け入れ数にも限界があります。
結果、偏差値的に中堅以下の学校における生徒の奪い合いになり、現状の生徒数比率に対して若干私立が優位になるという感じでしょうか。
こうして項目出しして考えてみると、私の想像の範囲では本施策が教育界に与える影響は意外と小さい気がします。
もちろん、今回は家庭の教育費負担を減らすことが目的なので、我が家も含むこれからの子育て世帯においては、結構大きなインパクトのある施策であることは間違いありません。
ただ、その反動となるようなリスクがあるかを考えたとき、巷で噂されるような、公私立学校の在籍生徒に明らかな偏りを生じさせるようなことは無いのではないかというのが私の考えです。